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尾上右近が翻訳現代劇『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル』に出演

 7月6日(金)~22日(日)まで紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて、尾上右近が初挑戦の翻訳現代劇『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル』が日本初上演されます。6月13日(水)に都内にて記者懇親会が開かれ、尾上右近と、翻訳・演出のG2が公演への意気込みを語りました。

【G2】
 長年舞台の仕事をしていますと、「やらねばならない作品」と「やっておかねばならない作品」というものがあります。「やらねばならない作品」はどんどん目の前に現れてきますが、「やっておかねばならない作品」はどうしても後へ、後へ回してしまうところがあります。今回は久々に「やっておかねばならない作品」に出会えた気がしています。これは是非ともやりたいということで、ここまで来たことを本当に嬉しく思います。どこかで自分自身がそれを創ることで、自身を変えてくれる、カンパニーのメンバーを変えてくれる、アウトプットばかりしているだけでなくインプットにもなりうる作品だと思います。
 この作品は、新たな切り口とか、方法論、感覚で書かれた戯曲だと思います。読んだ時に「お前ならどう演出するつもりだ」と(作者に)ニヤリと笑われたような気がして、これはぜひやってみたいということで企画を立てました。
 ほとんどの登場人物がプエルトリコ系のアメリカ人で、そこに黒人が入り、白人が入ってきたことでいろいろな問題が起こります。ましてや日本人が演じるということで、人種のるつぼのような気がします。アメリカで上演された、特殊な環境の中の物語に、とても普遍的な力を感じました。日本で上演するにあたり、日本人が持っているだろう共感に訴えるような部分にクローズアップして上演したいと思っています。

 日本人に向けてやりたいと思っていたところ、尾上右近さんという超“和”の方に入っていただいて、今回、現代劇が初挑戦というチャレンジ精神で来ていただいたという勇気を尊敬します。稽古場でも相当頑張っているので、完成するのが楽しみです。
 今回は、衣裳が派手とか、外連味とか、早替わりとか、装置の大転換があるとかではなくて、役者自身が持っている本質であるとか役自身に本質的に迫るという内面の作業が非常に多いです。だからこそ右近さんのような他のジャンルで活躍をして、いろいろな教養や文化を持つ方が入ってきていただけるということは嬉しいです。こういう舞台ですと、立稽古よりディスカッションというようなことが増えてきます。そういうところで新たな刺激を与えてくれるのではないかなと思います。
 やる側は難しいと思いますが、いろいろなアメリカの問題を背景に、社会派といいつつ社会の悪いところを掘り返す話ではなく、弱者たちがいかに新しい明日に向かって歩き始めることができるかという、観終わった後に勇気をくれるいい作品だと思っています。気軽に観に来ていただいて、とても楽しい観劇体験ができる作品だと思います。


【尾上右近】
 なにしろ初めてのこと尽くしです。現代劇でも、非常に社会派の難しいお芝居である物語の中心人物を、初現代劇、初翻訳劇、初主演という形でやらせていただきます。本当に困難を極めることだというのは、つくづく覚悟の上で挑戦させていただきます。
 共演者の皆様、G2さんが「この作品は難しい」という中、本読みからお稽古をしている真っ最中です。共演者の方々、百戦錬磨の先輩方がどう表現するのか、あのセリフはどう解釈するのか、難しいとおっしゃっているのを見て途方に暮れている毎日です。
 これはきっと自分の何か糧になるということと、危ない方、危険な道に進みやすい性格を受け入れたうえで乗り越えなければいけない試練だと思っております。壁を乗り越えられるか、乗り越えられないか、というよりも壁にぶち当たって打ち砕くつもりで、というのが今回の自分のテーマのつもりでいます。

 お稽古は、本読み、立稽古をシーンごとに分けて進めていく、これも自分にとっては凄く新鮮でありがたいです。歌舞伎の場合ですと、自分の中で腑に落ちている腑に落ちていない関係なく、有無を言わせず通し稽古から入ります。その中で、本当に自己管理で進めていかざるを得ない、背伸び、背伸びのお稽古というのが通常の歌舞伎のお稽古です。反対に、“わからない”ことを“わからない”ということが大事なお稽古だなということを感じています。やってみると、本読みでも戸惑うことがあり、立ったらなおさら、どうして良いのかわからいことがたくさんあり、恥ずかしい思いをしております。若いうちにこういう経験をさせていただけるということが嬉しいなと、恥をかくことが好きなので・・・可笑しいですけど・・・たくさん恥をかけるということを嬉しく思っております。皆様にご迷惑をおかけしますので、自分の中では一日、一日、成長していくことを信じてお稽古に励んでおります。

 現代劇で演じるということで、自分では気づかない歌舞伎で培ってきたものが自然と生きる形が良いと思います。劇中にジャズの不協和音のエピソードが出てきます。はじめはなかったものが、新たに生まれて一つのハーモニーとして不協和音が成立します。登場人物達の個性が最初はバラバラですが、次第に不協和音のように混じり合っていく感じのお芝居です。その中に自分が参加させていただくということは、歌舞伎の世界から来ている身として自分には歌舞伎しかないので、歌舞伎の要素とかを現代劇と混じり合わせて、現代劇をやってこられた方たちとは違う何かが生まれた時に、不協和音ではないですが不思議なメロディが見るメロディとして生まれれば良いなと思います。
 最初に脚本を読ませていただいた時の感想は、劇的ではない劇だなというものでした。それぞれの役の個性、国境、生い立ち、人種等が違う人たちの繋がりがどういうメロディーを奏でるかというところが非常に魅力的なお芝居だと思います。いろいろな社会問題を題材にしていますが、そこには人の心があり、人の心の温もりが何よりも伝わるお芝居だと思います。