吉右衛門、歌六が思いを語りました~9月歌舞伎座「秀山祭九月大歌舞伎」

2019.08.10 発表・会見

9月の歌舞伎座は初代中村吉右衛門の功績を顕彰する恒例の「秀山祭九月大歌舞伎」では、中村吉右衛門が『伊賀越道中双六 沼津』の呉服屋十兵衛、『菅原伝授手習鑑 寺子屋』の松王丸を勤め、また三代目中村歌六百回忌追善狂言を昼夜に上演し、当代中村歌六が三代目ゆかりの役を勤めます。

【中村吉右衛門】
今年の秀山祭は盛り沢山です。私の祖父・三代目歌六没後100年を追善させていただきまして、昼の部『伊賀越道中双六 沼津』では、(中村)歌昇さんの長男・小川綜真くんの初お目見得、劇中では追善の口上を述べさせていただきます。夜の部『菅原伝授手習鑑 寺子屋』では私と(尾上)菊之助、(尾上)丑之助の親・子・孫の共演と、おめでたいことが重なります。追善ではございますが、100年経つとおめでたいもので、祖父、養父(初代吉右衛門)にも孝行ができたと喜んでおります。そして、秀山祭がいつまでも続けられるよう願っております。

近松半二による『伊賀越道中双六』は、唐木政右衛門による仇討の話が主ですが、『沼津』はそれから少し外れた周りの人の仇討に係わる悲劇で、本当によく書かれていて大好きな芝居の一つです。一番難しいのは、親子だと分かっても、敵同士のため打ち明けられず、その家を去っていくときに空を見上げて「降らねば良いがなぁ」というひと言。そこで初代吉右衛門はその後の悲劇をお客様に感じさせたという劇評も残っております。私もそうできたらいいなと思っています。

『松浦の太鼓』の松浦鎮信公は、気が良くおっとりしたところもありますが、時に気も短い。その様子は、三代目歌六そのものと伝えられています。とても気のいい役ですので、歌六さんは義侠心が強いのでピッタリだと思います。
『菅原伝授手習鑑 寺子屋』では菅秀才を丑之助が勤めます。長く座るので大丈夫か心配ですが、七月の七夕の短冊に「菅秀才ができますように」と願っておりましたので、よかったなと思います。



【中村歌六】
吉例の秀山祭におきまして、私の曽祖父・三代目歌六の追善が吉右衛門兄さんの力添えで行えますこと、まことに感謝いたしております。昼の部『伊賀越道中双六 沼津』を吉右衛門・歌六という先代からの同じ名前で勤めます。夜の部では、三代目歌六のために書き下ろされたという秀山十種『松浦の太鼓』、初代吉右衛門、十七代目(中村)勘三郎、当代吉右衛門と面々と続いてきたこの演目を、一生懸命勤めさせていただきます。

『沼津』は親子の情、日本人の琴線に触れる作品です。前半は大いに乗っていただき、だんだん悲劇に、そしてクライマックスでは親子の別れを迎える、本当によく書けた作品です。前半の捨て台詞の応酬ではお客様に喜んでいただけるように、ドンと構えた吉右衛門兄さんにいろいろやってみたいと思っています。そして綜真くんには元気よく、毎日舞台に出てくれればと願っています。

『松浦の太鼓』の松浦鎮信は初役です。近習や其角は何度も勤め、何十回も見ている芝居ですが、見るとやるとでは大違い。最近は忠臣蔵を知らない若い人も多いようで、忠臣蔵を知らないとちょっとわかりにくいですが、吉右衛門兄さんに話を伺いながら勤めたいと思っています。